納経のひとりごと

アラサーオタクの雑記です

ある夜の回想

煙草を吸いに玄関先へ出た。

スタンドタイプの灰皿を置き、立ったまま一息つく。

 

いつもならベンチに座り、ソシャゲの周回にでも勤しむのだが、今日は目を休めたくて電子機器は置いてきた。

なぜか、ふと、散歩をしたくなった。

煙草が一本消えるまでの間だ。そう長くはない。

久しぶりに近所を歩くのも良いだろう。

 

足は自然と、僕の住む自治会の公園へと向いた。

懐かしい。

かつてあんなに遊びまわったのに、行く機会が絶えて久しい。

僕が遊んでいたころとはすっかり様変わりしたそこは、しかし当時の面影を残して僕を迎えた。

煙草は鈍い橙色を放って焼けてゆく。

 

次に公園に併設された集会所へ。

小学生のころは、ここの玄関前でポケモンやら遊戯王やらデュエマやら、とにかく毎日集っては何かしら遊んだものだった。

もちろん鬼ごっこなどの身体を動かす遊びもした。

長く見なかったとはいえ、やはり訪れるとじん、とくるものがある。

こんな気分になるのは、きっとお盆のせいだろう。

煙草の火は終わりの近いのを告げている。

 

自宅の玄関の映像が、唐突に脳裡に浮かんだ。

自分が座って煙草を吸っているはずの空間、閉め切らず空かした玄関扉、そこから漏れる玄関内の電灯光。

このまま自分がそこに帰らなければ。

どうなるだろう。

どうなるだろうか。

 

煙草の火はついに消え、僕はそれを集会所の玄関にあった灰皿に落とした。

たった今、燃え落ちた煙草の火のように、僕が今ここから姿を消す。

闇に溶けるように、僕という存在を残したまま、姿だけが消え去って。

それは。

とても「しあわせ」なことなのだろう、と。

 

何事もなかったような顔で、僕は玄関の鍵をかけた。