ある夜の回想
煙草を吸いに玄関先へ出た。
スタンドタイプの灰皿を置き、立ったまま一息つく。
いつもならベンチに座り、ソシャゲの周回にでも勤しむのだが、今日は目を休めたくて電子機器は置いてきた。
なぜか、ふと、散歩をしたくなった。
煙草が一本消えるまでの間だ。そう長くはない。
久しぶりに近所を歩くのも良いだろう。
足は自然と、僕の住む自治会の公園へと向いた。
懐かしい。
かつてあんなに遊びまわったのに、行く機会が絶えて久しい。
僕が遊んでいたころとはすっかり様変わりしたそこは、しかし当時の面影を残して僕を迎えた。
煙草は鈍い橙色を放って焼けてゆく。
次に公園に併設された集会所へ。
小学生のころは、ここの玄関前でポケモンやら遊戯王やらデュエマやら、とにかく毎日集っては何かしら遊んだものだった。
もちろん鬼ごっこなどの身体を動かす遊びもした。
長く見なかったとはいえ、やはり訪れるとじん、とくるものがある。
こんな気分になるのは、きっとお盆のせいだろう。
煙草の火は終わりの近いのを告げている。
自宅の玄関の映像が、唐突に脳裡に浮かんだ。
自分が座って煙草を吸っているはずの空間、閉め切らず空かした玄関扉、そこから漏れる玄関内の電灯光。
このまま自分がそこに帰らなければ。
どうなるだろう。
どうなるだろうか。
煙草の火はついに消え、僕はそれを集会所の玄関にあった灰皿に落とした。
たった今、燃え落ちた煙草の火のように、僕が今ここから姿を消す。
闇に溶けるように、僕という存在を残したまま、姿だけが消え去って。
それは。
とても「しあわせ」なことなのだろう、と。
何事もなかったような顔で、僕は玄関の鍵をかけた。